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はじめに
私が日常診療で多く扱っているC型肝炎の患者さんの診療についてなるべくわかりやすく書いてみることにしました。Q&A形式としましたので、興味のある箇所や日頃疑問に思っているところだけを拾い読みしていただいても結構です。
・ C型肝炎の病態生理
Q:C型肝炎の原因は何なのですか?
それはC型肝炎ウイルス(HCV)です。ヒトの肝細胞に感染し肝炎を引き起こすウイルスとしてA型肝炎ウイルス、B型肝炎ウイルスなどが知られていました。一方、A型でもB型でもない肝炎ウイルスが存在し、従来非A非B型肝炎ウイルスと呼ばれていました。長い間このウイルスの正体は不明でしたが、遺伝子工学の進歩により血液を介して感染する非A非B型肝炎ウイルスとして1989年C型肝炎ウイルス(HCV)が発見されました。このウイルスはRNA(リボ核酸)を遺伝子としています。C型肝炎はこのC型肝炎ウイルスが血液などを介してヒトからヒトへ感染し、肝細胞に感染することによって引き起こされる疾患です。
Q:C型肝炎ウイルスはどのようにして感染するのですか?
C型肝炎ウイルスは感染者の血液を介して感染します。感染経路としては輸血、血液製剤の輸注、医療行為に伴う感染、刺青(入れ墨)、鍼治療、静注薬物乱用、性交感染、母児間感染などがあります。献血者に対するHCV抗体スクリーニングが施行される以前は輸血を受けた患者さんの約10%に輸血後肝炎が発生しました。現在は献血者スクリーニングにHCV抗体が導入されC型肝炎ウイルスによる輸血後肝炎はほとんど見られなくなっています。医療行為に伴う感染としては、汚染医療器具の再使用や医療従事者の汚染針事故(医療従事者が採血後の汚染針を自分の指に誤って刺してしまうなど)などがあります。患者さんに1度使用した針やメスなどの医療器具は廃棄するか再使用する場合には確実に消毒、滅菌(消毒用アルコールは無効)し、汚染医療器具が他の患者さんに再使用されないよう注意する必要があります。また医療従事者、とくに医師、看護婦(士)、検査技師は血液に接する機会が多く医療行為にあたり日頃から感染予防のための正しい知識と注意が必要です。C型肝炎ウイルスはB型肝炎ウイルスに比較して患者血液中のウイルス量が少ないため、針事故を生じた場合もC型肝炎に感染する確率は約1%と低い傾向にあります。万一、針事故を起こしてしまった時は速やかに受傷部位の血液をしぼり出し流水で洗浄したうえ医師に報告してください。性交感染、母子間感染についてはB型肝炎ウイルスほどには高頻度ではなく、C型肝炎ウイルスの場合は主たる感染経路ではないと考えられます。
Q:C型肝炎の病型と自然経過について教えてください。
C型肝炎には急性肝炎、慢性肝炎、肝硬変および肝細胞癌といった一連の病型があります。C型急性肝炎の約60-70%は慢性化し、さらに一部は肝硬変や肝細胞癌にまで進展します。C型慢性肝炎では、自然に軽快する例はまれであってC型肝炎ウイルスの感染が終息することは少なく、最終的に約40%が肝硬変へと進展し約25%に肝細胞癌が合併することが知られています。
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C型肝炎の診断と治療
Q:C型肝炎の診断はどのようになされるのですか?
C型肝炎の診断は自他覚症状、血液検査(一般肝機能検査、抗体検査)、画像診断(腹部CT,
超音波検査など)、肝生検などの結果から総合的に行なわれます。とくにウイルス肝炎では、抗体検査の結果により原因のウイルスが診断されます。C型肝炎ウイルスに感染しているかどうかの診断にはC型肝炎ウイルス抗体(HCV抗体)を調べる必要があります。また、血液や肝臓内のC型肝炎ウイルスを遺伝子学的に直接測定する方法もあります。
つぎに、C型肝炎の診断に必要な身体所見の知識と検査について示します。
1. 自覚症状・他覚症見
急性肝炎では食欲不振、嘔気(嘔吐)、全身倦怠、肝腫大、黄疸(皮膚や眼球結膜の黄染)などが出現します。しかし、C型急性肝炎の場合A型やB型急性肝炎にくらべ症状が軽く黄疸が認められないこともよくあります。慢性肝炎の場合、多くは自覚症状に乏しく他覚的に肝腫大を認めるのみです。肝硬変では、皮膚にくも状血管腫や手掌紅斑、女性化乳房をみとめ、増悪時には黄疸、浮腫、腹水が出現し肝性脳症と呼ばれる意識障害が生ずることもあります。
2. 血液検査
・)一般肝機能検査
一般に血液中のGPT, GOT,
アルカリホスファターゼ(ALP), γ-GTP, LDH, ZTT,
TTTの上昇がみられます。肝硬変になると血小板、コリンエステラーゼ(ChE)、アルブミンの減少が認められることが多いものです。急性肝炎、慢性肝炎や肝硬変の増悪時には総ビリルビン値の上昇がみられます。
・)抗体検査、遺伝子検査
C型肝炎ウイルスの感染は、血清中のC型肝炎ウイルス抗体(HCV抗体)を測定しそれが陽性であることから診断されます。一般的に、肝機能検査に異常があってHCV抗体陽性であればまずC型肝炎と診断して間違いありません。また、C型肝炎ウイルス(HCV)の感染を遺伝子学的に診断する方法(PCR法によるHCV-RNAの検出)が開発され、より感度の高い診断が可能となりました。
3.
画像診断(腹部超音波検査、腹部CT検査など)
急性肝炎では肝は腫大し、慢性肝炎では肝の辺縁が丸く鈍化し表面は不整となります。肝硬変にまで進展すると肝は小さく萎縮し表面は凹凸不整となり、脾腫の認められることが多いものです。また腹部超音波検査は肝癌の早期発見や診断にきわめて有用で、慢性肝炎や肝硬変の患者さんに対しては定期的に検査することが必要です。
4. 肝生検
肝生検とは、患者さんの肝組織を生検針で採取し病理組織学的に診断する方法です。経皮的に針生検する方法と腹腔鏡下で生検する方法とがあります。肝生検は肝炎の活動性や肝硬変の有無を調べるのに有用な検査です。とくに、C型慢性肝炎の患者さんにインターフェロン治療を行なう際には事前に実施しなければならない検査です。
Q:C型肝炎の治療にはどんなものがありますか?とくにインターフェロン療法について教えてください。
一口にC型肝炎の治療といっても、急性肝炎、慢性肝炎、肝硬変および肝癌など病型や病態によりその対処方法は様々です。そこで今回は、C型慢性肝炎に対するインターフェロン療法を中心に話を進めたいと思います。従来C型慢性肝炎に対して用いられた薬剤は漢方薬や肝庇護剤などで、これらの薬剤にはウイルスそのものを退治する作用はなくその多くは対症療法の域にとどまっていました。これに対しインターフェロンはHCVに対する抗ウイルス作用を有する薬剤で、インターフェロン療法によりC型慢性肝炎の根治が期待できるようになりました。一方、C型慢性肝炎に対しインターフェロン療法が普及するにしたがいさまざまな副作用が経験されるようになり、投与中ならびに投与後のきめ細かい観察が必要です。
1.
インターフェロン療法の適応
・抗体検査(HCV抗体)または遺伝子診断(HCV-RNA)が陽性であること。
・原則として、治療開始前1年以内に肝生検を行ない組織学的に慢性肝炎の診断がなされていること。
・自己免疫性肝炎、アルコール性肝炎等その他の慢性肝疾患でないこと。
・肝硬変や肝不全を伴わないこと。
2.
インターフェロンの種類と投与方法
インターフェロンには大きくα型、β型、γ型の3種類が存在し、C型慢性肝炎の治療に有効性が確認され使用されるのはα型とβ型インターフェロンです。α型は筋肉注射、β型は静脈注射により投与されます。α型は1回300-1000万単位を2週間連日投与した後週3回の間欠投与を6ヵ月間、β型は300-600万単位を6ないし8週間連日で投与する方法が一般的です。
3.
インターフェロン療法の効果判定と治療成績
インターフェロン投与終了後のGPT値の推移から著効、有効、悪化、不変のいずれかに判定されます。著効例の多くは血液中からC型肝炎ウイルス(HCV)が消失し、GPT値も持続的に正常化して長期的にも慢性肝炎が治癒した状態となります。著効例では肝組織内での肝炎の活動性が低下消失し線維化も軽減され、肝硬変や肝癌への進展が阻止されます。しかし、インターフェロンが著効するのは全投与症例の約30-40%といわれ、投与終了後GPT値が再上昇する例や治療に反応しない例なども多く今後の検討課題となっています。
Q:どのような患者さんにインターフェロン療法を実施すれば効果的ですか?
インターフェロン治療が成功するか否かは、感染しているウイルス側の要因や患者さん側の要因、インターフェロンの投与方法などにより決まってきます。ウイルス側の要因としては感染ウイルス量が少ないこと、ウイルスの遺伝子型が2群(2a、2b型)であることなどが効きやすい条件です。一方、ウイルスの遺伝子型が1群(1a、1b型)のウイルスに感染している患者さんは、インターフェロンの効きがよくありません(著効率は20-30%位)。患者さん側の要因としては、肝臓の線維化が少ないこと、また感染してからの期間が短いことがあげられます。インターフェロンの因子としては、投与総量をできるだけ多くすることです。そのためには1回の投与量を多くし、投与期間を長くすることです。これらの中でとくに感染しているウイルスの量と遺伝子型は治療前に必ず調べて、個々の患者さんにおけるインターフェロンの有効性を予測することが大切です。ウイルス量が少なく遺伝子型が2群(2a、2b型)の患者さんに限れば、70-80%の確率で著効が得られます。
Q:インターフェロン療法による副作用にはどんなものがありますか?
・)投与初期(治療開始後2週間以内)に認められるもの
高熱、頭痛、筋肉痛、全身倦怠感などのインフルエンザ様症状。食欲不振、嘔吐、下痢などの消化器症状。タンパク尿(主にβ型インターフェロン使用時)。白血球、血小板減少。白血球数は2000/mm3以下、血小板は5万/mm3以下となった場合は休薬し、回復を待って再投与します。
・)投与中期(投与開始3週間から3ヵ月)に認められるもの
不眠、情緒不安定、憂うつ気分などの精神症状。うつ状態がひどい場合は自殺へとつながる恐れがあり専門医に相談します。甲状腺機能異常(亢進症または低下症)、糖尿病の悪化、月経不順などの内分泌障害。自己免疫性肝炎、間質性肺炎や眼底出血などの報告もあります。
・)投与後期(投与開始3ヵ月以降)に認められるもの
脱毛は投与開始3ヵ月頃から出現します。投与量、投与期間に比例しβ型よりα型インターフェロン投与時に多く認められます。通常は投与終了後2-3ヵ月で回復します。
以上C型肝炎の診断とおもにC型慢性肝炎に対するインターフェロン療法についてお話しました。C型慢性肝炎は自然に治癒することはほとんどなく、将来的に肝硬変や肝癌に進展する可能性のある疾患です。慢性肝炎の段階でインターフェロン療法により持続的なウイルス感染を絶ち切ることができれば、肝硬変や肝癌への進展予防にもなります。しかしインターフェロン療法の著効率は今だ充分ではなく、今後投与方法の見直しなど改善すべき問題が残されています。
おわりに
手前味噌な話で恐縮ですが、日本肝臓学会の認定医試験を受験し、試験はあまりできなかったのですが幸いパスすることができました。今後は、学会にもさらに積極的に参加し勉強して、認定医として辰野病院の肝臓病診療とりわけC型肝炎診療の質を益々向上させてゆきたいと考えています。
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